なんで”なば”というの?

引用資料:桑野 功著「大分椎茸栽培の言い伝え」


西日本一帯では、きのこ類を総称して、”なば”という言葉が使われています。 また、動きつかれてくたびれたときなど”なばんごつなっちょる”などどしても つかわれています。語源については、以前から議論されているところです。 ”なば”を辞書でひいてみました。

広辞苑では、
『「きのこ」を中国・九州地方で言う。たけ、くさびら。日葡辞書「ナバ・キノコ」』 とあります。 大言海では、
『(滑生ノ義カト言フ)菌(キノコ)茸(タケ)』とあります。

では、”茸”を漢字語源辞典(藤堂明保著)に見てみますと、『茸は、きのこの 類の総称に用いられ、その柔らかくて、粘りけのある点に着目した命名である。 茸は「艸+耳」の会意文字で、「耳」は柔らかいものをあらわす意符として加 わったものである。柔らかく茂ったクサを意味し、辱(ジョク)の対転に当る。 ふつうは柔らかいきのこの意にもちいる』とあります。このように「茸(タケ)」 とは、きのこの質からついた名称ではないでしょうか。

では、”なば”の語源となるようなことばはないものかと探してみると、”なばえ” という言葉があります。

広辞苑では、
なばえ『木の切り株かわ生えた芽。ひこばえ。』とあります。他の辞書では、なばえ 『木の切り株から、あらたに芽が生えてくること。また、その芽。ひこばえ。またばえ。めだし。』 とあります。

漢字語源辞典で「なばえ」をみると『芸の単語家族に属し、一部分を残して他を切り捨てるの意味 を含む多くの言葉が属している。切り株から生じる小枝を蘗(ゲツ)といい、転じて親が殺されて残った 子、妾腹の子を蘗(ゲツ)という。』とあります。

そこで、菌に関係のある言葉に「蘗」の字が使われていないかをさがしてみました。

故事成語大辞典(管野道明著)で、
『麹蘗(キクゲツ)「酒母(カウジ、モヤシ)なり、また直ちに酒の義に用ふ」』とありました。

このことから、”なば”はきのこの発生する形態から「なばえ(蘗)」が変わったものと考えております。